出向14日前: 本府省の出向者に選ばれるまでの経緯
令和4年7月中旬。暑さが増してきた昼下がり。部長から「応接室に来るように」との連絡を受けました。
部長に呼び出されることは日常茶飯事でしたが、応接室に来るように言われたのは初めてです。
込み入った話であることは間違いありません。
何か重大な違反を犯したのではないか。大きなミスがあったのではないか……。
いくら思い返してみても、思い当たる節がありません。
結局、応接室に呼び出された理由の見当もつかないまま、重い足取りで応接室に入りました。
部長の顔を見て胸をなで下ろしました。どうやらネガティブな話ではないようです。
来客用のソファに座ると、部長から封筒を手渡されました。
「びっくりするような話なんだけど」という部長の言葉と同時に、私の目に封筒に印字された『官民人事交流』の文字が飛び込んできました。
官民人事交流制度――。
社会保険労務士試験の勉強の端でうっすらと覚えていた言葉です。
瞬間的に思ったことは「なんでここに?」という疑問でした。私の職場は、診療所ほど小さな医療機関ではありませんが、決して大きくない医療法人です。そんなところに、どうして官民人事交流の話が来たのか。
何の疑問も解決されないまま顔を上げると、部長が嬉しそうに言いました。
「君に来年から〇〇省に行ってほしい」
状況的にその言葉は予測していましたが、すぐに声を出すことができませんでした。
部長はますます嬉しそうな顔をして、今回の話の経緯を説明し始めました。
7月初旬に理事長に官民人事交流の話が来たこと。
法人本部で適当な人材が見つからず、部長のところに話が下りてきたこと。
部長が理事長に私を推薦したこと。
部長が本府省の出向に相応しい者として私を推薦したことは、素直に栄誉あることだと捉えました。
湧き出る疑問や不安はありましたが、この時点で私の心は決まっていました。
ただし、私には妻や娘がいます。
気ままな独り身ならいざ知らず、給与や職場が変わるという一大事を私の一存だけで決めるわけにはいきません。
私の意向を無下に否定する妻ではありませんが、しっかりと事情を説明して、家族の承諾を得る必要があります。
帰宅後、さっそく妻に話をしました。おそらく、話は半分くらいしか理解していなかったのでしょうが(いまだにどの省庁に行くかもわかっていません)、私の意向を快く承諾してくれました。本当にありがたいことです。
2日後。その時点では守秘性高い情報だったため、口頭ではなくメールで返事をしました。
「出向の件、謹んでお受けいたします」