【徹底解剖】債券および債券の指数
つみたてNISA対応の投資信託は、2022年4月現在、約200本あります。このうち、半数以上が株式だけを投資対象としています。一方、債券だけを投資対象としている商品はありません。
つみたてNISA対応の投資信託において、債券で運用したいと考えた場合は、複数の資産で構成されたバランス型の投資信託を選択することになります。
今回は、つみたてNISA対応の投資信託の投資対象となる債券と、その指数について説明していきます。(つみたてNISA対応の投資信託において)債券の指数が株式の指数と異なるのは、債券の指数は合成ベンチマークの要素として採用されるため、一の指数だけをとらえていても意味がないということです。
そのため、本記事では指数の紹介はそこそこに、債券の全体像についても説明していきたいと思います。
つみたてNISA対応の投資信託における債券とその指数
つみたてNISA対応の投資信託における債券とその指数には、以下のようなものがあります。
それぞれの指数の詳細は、以下のとおりです。
NOMURA-BPI総合 野村證券金融工学研究センターが算出する日本の債券指数です。多くの投資信託のベンチマークとして利用されています。日本で発行されている公募の確定利付き円建債を対象としており、日本の債券市場全体の動きを把握することができます。債券の種類別(総合、国債、地方債、政保債、金融債、事業債、円建外債、MBSなど)および残存期間別の各インデックスを提供しています。構成銘柄の基準として、残存額面10億円以上、残存期間1年以上、事業債・円建外債・MBS・の場合はA格相当以上の格付などを謳っています。 |
FTSE 世界国債インデックス 主に先進国の一年以上の残存期間が残っている債券で構成される債券指数です。旧称はシティグループ世界国債インデックスでしたが、2017年8月末にロンドン証券取引所グループがシティグループからシティ債券インデックス事業を買収したため、名称が変更されました。対象となっている国は、北米圏(アメリカ、カナダ、メキシコ)、イギリス、EU圏(ドイツ、フランス、イタリア、オランダ、スペイン、デンマーク、スウェーデン、フィンランド、ノルウェー、ポーランド、オーストリア、ベルギー、アイルランド)、アジア圏(日本、オーストラリア、シンガポール、マレーシア)、イスラエルです。たまにスイス、ポルトガル、南アフリカが加わります。2021年10月からは中国の国債も採用しています。日本の債券の組み入れ比率も比較的高いです。 |
JPモルガン・ガバメント・ポンド・インデックス-エマージング・マーケッツ・グローバル・ダイバーシファイド(JPモルガン・GBI-EMGD) JPモルガン社が算出する新興国15~20か国の現地通貨建て国債、約200銘柄で構成される新興国の債券市場の動向を表す債券指数です。一国の組み入れ比率を最高で10%に抑えるなど、指数の分散性が高い点が特徴です。地域別で見ても各地域ほぼ均等に割り当てられています。対象となっている地域・国は、アジア(インドネシア、中国、タイ、マレーシア、フィリピン)、中南米(メキシコ、ブラジル、コロンビア、チリ)、欧州(ポーランド、ロシア、ハンガリー、チェコ)、中東・アフリカ(南アフリカ、トルコ、ルーマニア、ウルグアイ、ドミニカ共和国)です。インドは含まれていません。 |
JPモルガン・エマージング・マーケット・ボンド・インデックス・プラス(JPモルガン・EMBI+) JPモルガン社が算出する新興国15か国程度の米ドル建て国債、約120銘柄で構成される新興国の債券市場の動向を表す債券指数です。一国の組み入れ比率に制限はなく、世情に応じて変動します。対象となっている地域・国は、アジア(インドネシア、フィリピン)、中南米(メキシコ、ブラジル、コロンビア、アルゼンチン、ペルー)、欧州(ロシア、ウクライナ、ハンガリー)、中東・アフリカ(トルコ、パナマ、南アフリカ、ルーマニア、ウルグアイ)です。中国とインドは含まれていません。 |
ブルームバーグ・パークレイズ・グローバル総合指数 バークレイズ・キャピタルが算出する米国の債券の指数です。米国において投資適格の格付基準を有している国債、政府関連債、社債、担保付証券(MBS:モーゲージ証券、ABS:アセットバック証券、CMBS:商業用不動産担保証券、Hybrid ARM:ハイブリッド変動金利型住宅ローン)などを対象とする総合型インデックスです。 |
つみたてNISA対応の投資信託においては、日本の債券=NOMURA-BPI総合、(日本および中国を含む)先進国の債券=FTSE 世界国債インデックス、(中国を含む)新興国の債券=JPモルガン・GBI-EMGD、(中国を除く)新興国の債券=JPモルガン・EMBI+と捉えておけばいいでしょう。
ブルームバーグ・パークレイズ・グローバル総合指数については、採用している投資信託の本数が非常に少ないため、参考程度に見ておくといいでしょう。
債券の基礎知識
債券の特徴
- 収益性:債券は発行から償還(満期)までの全期間、発行時に決められた利率による利子が支払われるのが一般的です。そのため、安定した収益を得られる可能性が高くなります。また、長期の固定金利の債券は、金利低下時に価格の上昇が見込まれ、金利上昇時は価格の低下が起こりやすいです。
- 安全性:債券の利払いや償還は発行体により約束されていますが、その発行体が破綻すると返済不能や遅延というデフォルト(債権不履行)が発生することになります。安全性を高めるため、政府保証(元利金の支払いに政府の保証が付く)、一般保証(発行体の財産から他の債権者に優先して弁済が受けられる優先弁済権が付く)、物上担保(発行体の特定の財産に担保が付いている)などの保証が付く債券もあります。
- 換金性:債券はいつでも売却することにより換金できますが、償還(満期)と違い売却価格は債券相場により変動します。売却のしやすさも債券の信用力などにより異なります。
債券の分類
- 利付債と割引債:利付債は定期的に利子が支払われる債券で、割引債は利子が支払われない債券です。割引債は発行時に額面よりも安く発行され、償還時の額面と発行時の価格との差が利子代わりになります。
- 公共債と民間債:発行体が国や地方公共団体の債券が公共債で、民間の債権が民間債です。公共債には国が発行する国債、地方公共団体が発行する地方債、政府関係機関が発行する政府関係機関債(特別債)があります。民間債には事業会社が発行する社債(事業債)、債券発行銀行が発行する金融債があります。
- 新発債と既発債:新規に発行される債券を新規債といい、すでに発行されている債券を既発債といいます。
- 公募債と縁故債:公募債は誰でも買える債券で、縁故債は購入する人が特定されている債券です。
債券の発行条件
- 額面債権:債券の返還時に返済される金額のことで、債券を購入する際の単位です。
- 表面利率:クーポンレートとも呼ばれ、額面金額に対する1年間の利子の割合を表します。表面利率は変動金利の債券を除くと発行時に定められた利率が還元されるまで変わることはありません。
- 発行価格:新初債が発行される時の価格です。額面100円に対しての価格で表されます。
- 償還期限:満期のことで、投資家はこの日に額面金額が受け取れます。満期まで待って戻ってくる場合を最終償還、満期まで待たずに戻ってくる場合を期中償還といいます。
- 利払日:利子が支払われる日のことで年2回が一般的です。
- 募集期間:募集の申し込みを受ける期間のことです。不特定多数の者に新たに発行される債券の取得の申し込みの勧誘をすることを募集といいます。
債券のリスク
- 金利変動リスク:債券を購入した後の世の中の金利水準の変動により、購入した債券の価格が変動するリスクです。金利は常に変動していますから、償還までの期間が長い長期債の方が償還までの間に金利が変動するリスクが高くなります。債券価格と金利・利回りの関係は次のようになります。
金利 | 利回り | |
債券価格 上昇 | 低下 | 低下 |
債券価格 低下 | 上昇 | 上昇 |
- 信用リスク:デフォルトリスクともいいます。債券の発行体が経営破たんして債券の償還や利払いができなくなるリスクです。信用リスクに判断には第三者機関である格付け機関が発表する格付けを利用することになります。次の格付けのように、BBB各以上を投資適格債と呼び、BB各以下は投機的格付債(ジャンク債、ハイ・イールド債)と呼ばれます。
- 格付け:格付け会社はスタンダート&プアーズ(S&P)とムーディーズ・コーポレーションの寡占状態で、次にフィッチ・レーティングスが続きますが、いずれも米国の企業です。S&Pの2019年版(コロナ禍前)の主要国の格付け(AAA~BBB)は次のようになっています。
格付け | 発行体 | 総評 |
AAA | スイス | 経済やや減速 |
ドイツ | ドイツ銀行破綻のおそれ | |
オランダ | 食品価格上昇 | |
デンマーク | クローネ流通増 | |
スウェーデン | 経済堅調 | |
ノルウェー | 原油依存度高い | |
カナダ | 自転車操業多い | |
シンガポール | 成長率下方修正 | |
オーストラリア | 景気拡大の終焉近い | |
AA+ | オールトリア | ドイツ経済に依存 |
フィンランド | 失業率高い | |
アメリカ | クレジットカードの負債額増 | |
香港 | デモ激化 | |
AA | フランス | 民衆運動過激化 |
ベルギー | 成長率高い | |
イギリス | EU離脱へ | |
韓国 | 日韓通貨スワップに依存 | |
ニュージーランド | 銀行の利下げ | |
AA- | チェコ | 景気やや後退 |
台湾 | 日本向け輸出好調 | |
A+ | アイルランド | 失業率低い |
日本 | ||
中国 | 内需縮小 | |
A- | スペイン | 失業率低下 |
ポーランド | 経済成長続く | |
マレーシア | 景気後退 | |
BBB | イタリア | 低迷中 |
ブルガリア | IT企業集中 | |
ポルトガル | 経済回復 | |
ロシア | 成長率低い | |
メキシコ | 利下げ緩和中 | |
フィリピン | インフラ整備進む | |
インド | 経済成長率に不信感 |
- 流動性リスク:債券を売りたいときに売れず、売却機会を逃して投資収益が毀損するリスクです。債権の市場規模が小さいときなどに発生することがあります。
- カントリーリスク:債券の銘柄によるリスクではなく、債券が発行された国固有のリスクです。債券を発行する国の政治的・経済的なリスクが原因となって価格変動が起こる可能性があります。
- 期中償還リスク:償還期限前に償還されてしまうリスクで、想定していた収益を得られる期間が減少することにより、想定していた収益を得られなくなることがあります。
日本の債券
利付国債
期中に利子が支払われる国債で、流通量が多く、いつでも売買できる流動性があります。
購入先 | 証券会社、銀行、ゆうちょ銀行 など |
申込単位 | 額面5万円 |
発行頻度 | 毎月 |
償還期限 | 2年、5年、10年 |
金利 | 固定金利、半年ごと利払い |
換金(売却) | いつでも可 |
個人向け国債
次のような3種類の個銀向け国債が発行されていて、額面金額1万円から購入でき、発行は毎月行われています。換金は1年経過した日から行うことができます。途中(満期前)で換金したときは、直前2回分の利子×0.8円の調整額が差し引かれます。利払は半年ごとに行われます。金利の下限は3種類共通で0.05%に設定されていて、ここ最近は3種類すべてでこの下限が適用されています。
10年満期 | 5年満期 | 3年満期 |
変動金利 | 固定金利 | 固定金利 |
金利水準 基準金利×0.66 | 金利水準 基準金利-0.05% | 金利水準 基準金利-0.03% |
物価連動国債
変動するのが金利ではなく元本の国際です。物価動向に応じて国債の元本が増減します。参照する物価は全国消費者物価指数です。額面金額10万円から購入でき、10年を満期としていますが、ペナルティなくいつでも換金できます。
超長期国債
満期が20年、30年、40年の非常に長い国債です。主に金融機関向けの国際です。
債券運用のメリットとデメリット
前述のとおり、つみたてNISA対応の投資信託において、債券だけを投資対象としている商品はありません(一般NISA対応やNISA非対応の商品には、債券だけを投資対象としている商品が数多くあります)。
そのため、つみたてNISA対応の投資信託において債券の運用を試みる場合、資産複合というかたちの運用となります。
具体的には、4資産(指数)、6資産(指数)、8資産(指数)を投資対象とする商品の中から、個人のポートフォリオに合った(債券の)投資比率の商品を選びます。
つみたてNISA対応のバランス型の投資信託(債券を含む投資信託)では、債券の投資比率が半分(50%)のものを基本に考えます。債券の投資比率をもっと大きくしたい場合は、最大で70~80%の商品もあります。一方、債券の投資比率をもっと小さくしたい場合は、30%程度の商品がいいでしょう。さらに、経時的に債券の投資比率が大きくなる商品もあります。商品の詳細を知りたい場合は、以下の記事で確認してください。
債券運用の最大のメリットは安定性です。その中でも、日本>先進国>新興国の順により安定性が増します。反対にデメリットはリターンが小さいことです。特に、日本の債券は長く続く低金利影響で、収益性は非常に悪いです。
外国の債券は、日本の債券よりも金利や良く、収益性が高いものも多いですが、株式の変動に比べれば微々たるものです。
債券に投資する場合は、基本的に安定性や分散性を求めることになるため、個人のポートフォリオから安定資産の種類や割合を吟味し、適切な債券・投資比率の商品を選ぶことができるといいでしょう。