【徹底解剖】MSCI エマージング・マーケット・インデックス(MSCI EMI)
たま男くんは資産運用しているの?
うん。一応やっているよ! 3年くらい前から国内の債券と国内の株式に投資してるんだ。最近、つみたてNISAで米国や先進国の株式にも投資し始めてるよ。少額だけど。
いいバランスだね。でも、ポートフォリオを見ると安定した資産中心の運用みたいだね。
リスクの高い資産への投資はなんか怖くって。でも興味がないわけじゃないんだ。
それなら、新興国の株式を投資対象とした投資信託なんかどうだろう。新興国の株式自体はハイリスクの商品だけど、投資信託にすることでカントリーリスクを軽減しているんだ。
へー。そーなんだ! でも、投資信託って言ったら、指標に連動して、もしくは指標を上回るように運用するのが基本だと思うんだけど、全世界の株式を対象とした指標なんてあるの?
うん。新興国の株式を対象とした指標はいくつかあるんだけど、最も有名なものはMSCI エマージング・マーケット・インデックスって指標なんだ。
じゃー、そのMSCI エマージング・マーケット・インデックスについて、もっと詳しく教えてよ。
OK。まずは概要から説明していくね。
MSCI エマージング・マーケット・インデックス(MSCI EMI) 新興国23か国(2019年6月)の大型株と中型株の約1,200銘柄で構成される株価指数です。株式の総合投資収益を各市場の時価総額比率で加重平均して指数化したもので、新興国の株価動向を知るのに広く利用されている株価指数です。世界的な指数算出会社のMSCI(モルガン スタンレー・キャピタル・インターナショナル)社が算出・公表しています。 |
新興国23か国……。先進国と違って、どんな国があるのかあんまりイメージできないな。
26か国を具体的に列挙すると、アジアは中国、インド、インドネシア、韓国、マレーシア、フィリピン、台湾、タイの8か国。欧州はチェコ、ギリシャ、ハンガリー、ポーランド、ロシアの5か国。南米はブラジル、チリ、コロンビア、メキシコ、ペルーの5か国。中東はカタール、トルコ、アラブ首長国連邦の3か国。アフリカハエジブと、南アフリカの2か国。
中国や韓国なんかは日本に近いこともあって、先進国だと思ってたな。
あくまでもMSCI エマージング・マーケット・インデックスを算出しているMSCI社の分け方だから、現実の世界的な認識や経済動向とは異なる部分もあるんだ。
なるほどね。
では、MSCI エマージング・マーケット・インデックスをより詳しく見ていこう。
MSCI エマージング・マーケット・インデックスを構成する代表的な銘柄
MSCI エマージング・マーケット・インデックスは、約1,200の銘柄で構成されているってことだから、さすがにトップ10を知っておいてもそんなに意味はないよね?
意味がないってことはないけど、MSCI エマージング・マーケット・インデックスに応じて投資する投資信託を選ぶってことは、新興国に対しての分散投資を目的としているだろうから、1銘柄の影響がどうのこうので話していてもしょうがないね。
それなら、何を知っておいた方が良いのかな。
一番知っておくべきことは、構成銘柄の地域・国別のウエイトだろうね。どの地域・どの国の銘柄を多く組み入れているのか、そのウエイトはどの程度のものなのかを知っておくことで、目的としている「分散性の程度」がわかるんだよ。
ということは、地域・国別のウエイトに偏りがあるってことだね。早速、教えてよ。
MSCI エマージング・マーケット・インデックスの地域・国別のウエイト(2020年6月)
地域・国 | ウエイト(%) |
中国 | 40.95 |
台湾 | 12.28 |
韓国 | 11.61 |
インド | 8.02 |
ブラジル | 5.14 |
その他の地域 | 22.00 |
MSCI エマージング・マーケット・インデックスの上位構成銘柄(2020年6月)
銘柄 | 地域・国 | ウエイト(%) |
Alibaba:アリババ | 中国 | 8.41 |
Tencent:テンセント | 中国 | 6.12 |
Taiwan semiconductor:台湾セミコンダクター | 台湾 | 5.58 |
Samsung:サムスン | 韓国 | 3.38 |
Meituan:メイトゥアン | 中国 | 1.83 |
Naspers:ナスパーズ | 南アフリカ | 1.27 |
Reliance industries:リライアンスインダストリーズ | インド | 1.26 |
China construction:チャイナコンストラクション | 中国 | 1.06 |
JD.com:ジェイディーコム | 中国 | 1.04 |
Ping an:ピンアン | 中国 | 0.99 |
中国、台湾、韓国の東アジアの株式が全体の60%以上のウエイトを占めているんだね。
その3か国以外の国は10%のウエイトに達したことすらないんだよ。MSCI オール・カントリー・ワールド・インデックスやMSCI コクサイ・インデックスと同じように、地域による偏りがあることは否めないね。
個別銘柄で見てもウエイトの上位は中国だらけだね。でも、MSCI オール・カントリー・ワールド・インデックスやMSCI コクサイ・インデックスが米国で占められていたのに対して、MSCI エマージング・マーケット・インデックスではその他の国も挙がっているね。
株式市場は米国が強すぎるからね。新興国を対象とした指数では、米国の影響が排除されるから、ウエイトの上位銘柄の独占は見られない。そういった意味では、MSCI オール・カントリー・ワールド・インデックスやMSCI コクサイ・インデックスよりも、MSCI エマージング・マーケット・インデックスの方が分散性は高いかもしれないね。
チャート分析
2020年:新型コロナウイルスが世界を支配した年
- 2月:新型コロナウイルス(COVID-19・武漢肺炎)の流行により急落
- 3月:武官を中心とした一部都市の封鎖の影響により底をつく(758.2ポイント)
- 7月:新規感染者数の急激な減少による好感
- 9月:米国の大統領選による先行きの不透明感から下落
- 11月:米国の大統領選の終結とワクチンの実用化への期待により上昇
- 11月:新型コロナウイルスからの脱却によりさらなる回復に
日本や世界の株式を代表する指数よりも、新型コロナウイルスの感染拡大からの底は浅いんだね。
東アジア、特に中国は初期対応が上手くいって、経済的なダメージは比較的軽度だったんだ。一方、欧米諸国の新規感染者は桁違いのスピードで伸びていった。結果的に新型コロナウイルスの影響は欧米の方が強かったんだ。
東アジアの情勢を色濃く反映すると思っていたんだけど、米国の大統領選の影響なんかも受けるんだね。
うん。当時の大統領選はトランプ氏とバイデン氏の戦いだったんだけど、その争点の1つに中国との関わり方があったんだ。中国に対して強固な対応を取っていたトランプ氏が再選するか、穏健派のバイデン氏が当選するかで、中国の株式市場にも大きな影響を与えるからね。
2021年:コロナ・ショック後の歴史的な株高を経験した年
- 2月:過去最高の1444.93ポイントに到達
- 5月:中国のIT関連企業の監視管理の強化による反発
- 6月:世界の多くの地域でワクチン接種率が50%以上に
- 8月:新型コロナウイルスの変異株(デルタ株)の影響でやや停滞
- 10月:中国の大手不動産会社のデフォルト危機や原油価格の高騰に伴う下落
- 11月:米国の連邦準備制度理事会(FRB)が量的緩和の段階的縮小を決定
最高値は2月17日の1444.93ポイントだね。
2月に最高値を付けて、3月までは上下しながら上昇基調を保ったけど、その後は基本的に緩やかな下落が続いたんだ。中国の政策不安がチャートに表れているね。
中国のIT関連企業とか不動産関連企業は厳しかったの?
うん。色々あったんだけど、一番は規制の強化だろうね。社会主義を維持するためのインターネットや土地の所有権における国の管理が強くなったことに対して、株式市場が反発した結果になったね。
2022年:世界的な原油高とロシアのウクライナ侵攻
- 原油高の影響で年初から徐々に下落
- ロシアのウクライナ侵攻の影響もあり、5月に再び1,000ポイント台に
- ゼロコロナ政策による上海のロックダウン
2022年はまだ始まったばかりだから、今後の動向を注視していくしかないね。
原油高、ウクライナ侵攻の帰結次第ということかな?
世界情勢の変化に伴う物価の上昇が現在進行形で進んでいるね。どちらも株式市場にはプラスにもマイナスにも起因するからバランスが大切だね。
加えて、ゼロコロナ政策が政策不安を引き起こしているから、相当に明るい兆しがない限りは復調の気配が見えないところも心配なんだ。
政権に対する不満を紛らわすために、台湾周辺の緊張感も高めているしね。どうなるんだろう?
台湾侵攻は確実に握手になるだろうけど、ウクライナ侵攻の例があるからな……。
他の指数との比較
次はMSCI エマージング・マーケット・インデックスと他の指数を比較してみよう! 改めて、2020年1月から2022年5月の日経平均株価のチャートを見てみよう。
MSCI エマージング・マーケット・インデックスの2020年1月~2022年5月のチャート
2020年3月に底(758.2ポイント)をついてから、約7月後の2020年10月にコロナ前の1,100ポイント台に戻し、約1年後の2021年2月に過去最高の1444.93ポイントを記録。以後は少しずつ下落し、2022年5月末時点で1,000ポイント付近になっている感じだね。
そのとおり。比較のポイントは大まかに言うと、①新型コロナウイルス第1波からの回復過程(2020年1月~2021年3月)と、②回復後から現在まで(2021年3月~2022年5月)の変化の2つを見ていくことになるよ。
日経平均株価(日経225)の2020年1月~2022年5月のチャート
日経平均株価は日本の代表的な株価指数だったよね。
そのとおり。日経平均株価とMSCI エマージング・マーケット・インデックスを比較すると、①の期間は2指数間で大きな違いはなく、2020年2~3月に底をつき、1年後の2021年3月にかけて回復しているのがわかるね。
でも、その後が結構違うね。
そうだね。日経平均株価は2021年3月以後も変動はありつつも上昇し、2021年9月が最高値になっている。一方、MSCI エマージング・マーケット・インデックスは2021年3月を境に下降し、現在はコロナ前の値を下回っているんだ。
日本と新興国の株式市場については、新興国の株式市場の方がWithコロナの相場が悪かったということなのかな。その原因は何だろう?
香港ハンセン指数の2020年1月~2022年5月のチャート
香港ハンセン指数って何?
非常に簡単に言うと、中国の株式の動向を表した株価指数だよ。
2つの指数のチャートはとてもよく似ているね。
2021年3月を境に、②の期間に徐々に下がっていく感じは同じだね。つまり……。いや。やはりというべきか、MSCI エマージング・マーケット・インデックスは中国の株式市場の影響を強く受けるんだ。
構成銘柄のウエイトの40%を占めていたもんね。
中国はロシアとのつながりも強いから、香港ハンセン指数の2022年2~3月の下げ幅は、日本や先進国を代表する株価指数よりも大きくなっているね。ロシアのウクライナ侵攻と中国の集団恒大のデフォルト危機の影響だよ。
MSCI オール・カントリー・ワールド・インデックスの2020年1月~2022年5月のチャート
MSCI オール・カントリー・ワールド・インデックスのチャートを見ると、日本と東アジアのつながりの強さがわかるんだ。
MSCI オール・カントリー・ワールド・インデックスは、2021年12月まで右肩上がりで上昇し続け、2022年になってようやく下がり始めているね。
一方、日経平均株価やTOPIXは、2021年末に再上昇しているものの、2021年中盤の下がり具合はMSCI エマージング・マーケット・インデックスに似ていたりするんだ。
MSCI エマージング・マーケット・インデックスの構成銘柄の6割は、中国・台湾・韓国の銘柄になっているわけだから、当然と言えば当然だよね。
地理的に切っても切れない関係だからね。
MSCI エマージング・マーケット・インデックスをベンチマークとする代表的な投資信託(つみたてNISA対応限定)
商品名 | 信託報酬 | トータルリターン(平均年率) |
たわらノーロード・新興国株式 | 0.3470% | 10.08% |
ニッセイ・新興国株式インデックスファンド | 0.2079% | 4.33% |
野村・インデックスファンド・新興国株式(愛称:Funds-i 新興国株式) | 0.6600% | 7.25% |
三井住友・DC新興国株式・インデックスファンド | 0.3740% | 5.51% |
i-SMT・新興国株式インデックス(ノーロード) | 0.3630% | 3.52% |
SMT・新興国株式インデックス・オープン | 0.6600% | 17.95% |
eMAXIS Slim 新興国株式インデックス | 0.1870% | 5.16% |
eMAXIS 新興国株式インデックス | 0.6600% | 7.55% |
つみたて新興国株式 | 0.3740% | 7.38% |
Smart-i 新興国株式インデックス | 0.3740% | 4.34% |
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トータルリターンが年率30%以上になっている商品はほとんどないんだね。
リスクを取って成長性(リターン)を期待するのが新興国の株式に投資する醍醐味なんだけど。投資信託においては成長しているとは言い難いね。
最近もダメなの?
どちらかというと最近の方がダメかな。15年くらい前は中国の勢いに乗じて市場も賑わっていたんだけど、チャイナ・ショックや米中貿易摩擦の頃から雲行きが怪しくなって、ロシアのウクライナ侵攻と台湾有事の緊張感の高まりによって拍車がかかっている感じかな。