【完全保存】従業員が業務中・通勤中に病気・ケガをしたときの手続き
従業員が業務中・通勤中に病気・ケガをしたときの手続きに関するおおまかな流れは、次のようになっています。
- 労働災害の発生:情報を収集して各種の報告・申請の準備を行う
- 被災者の受診:労災指定医療機関の受診を勧める
- 労働災害の報告:労働災害の程度に応じて報告を行う
- 療養の申請:療養(補償)給付の申請を行う
- 休業の申請:休業(補償)給付の申請を行う
労働災害が発生した場合、労働災害の規模や程度、被災従業員の病気やケガの状況などに応じて、手続きの内容やタイミングが異なります。被災従業員の安全と傷病の円滑な治療を優先しつつ、速やかに必要な報告を行うようにしましょう。申請は多少遅れたとしても、最終的に労働災害発生時にさかのぼって補償されます。
上記の①~⑤の項目の詳細を説明していきます。
労働災害の発生
業務中・通勤中の事故により、従業員が病気やケガを患ったり、または死亡したりすることを労働災害と言います。
労災保険の給付を請求するには、病気やケガなどが業務または通勤に起因することを証明する必要があります。なぜなら、当該事案が労働災害であるかどうかは、労働基準書が判断することになっているからです。
労働基準監督署が労働災害を認定するときポイントは、業務中の災害と通勤中の災害で、次のように異なります。
労働基準監督署から労働災害と認定されると、労働災害に関する給付を申請できるようになります。
被災者の受診
労働災害が起こった場合、まずは被災者の安全と円滑な治療を優先しましょう。従業員が業務中・通勤中に病気やケガを負ったときは、後先を考えずに受診を促します。ただし、受診時に「労働災害による受診である」ことを必ず述べるようにさせましょう。
労働災害であると断定できる場合に限らず、労働災害の可能性が少しでもある場合は、労災指定病院の受診を勧めます。労働災害により生じた傷病を、労災指定病院で診てもらうと、自己負担なしで治療を受けることができ、手続きの煩雑さも軽減します。
労働災害の給付は、労働基準監督署に労働災害であると認定され、医療機関に傷病を診断されたことを前提として受けることができるようになります。
労働災害の報告
従業員の病気やケガが労働災害によるものだと疑われるときは、労働基準監督署に「労働者私傷病報告」を提出しなければなりません。労働災害の認定は、労働基準監督署が「労働者私傷病報告」を基に行います。
「労働者私傷病報告」は、被災者の休業が4日以上(死亡含む)の場合は、遅滞なく提出しなければなりませんが、休業が4日未満の場合は、四半期ごとに区分けした期間の最後の月の翌月末日までに提出することになります。
四半期とは、1~3月、4~6月、7~9月、10~12月のことです。たとえば、8月8日に労働災害が発生した場合は、7~9月(四半期)の期間となるため、10月31日までに提出することになります。
療養の請求
労働災害による傷病の治療にかかる費用は、労災保険の給付を受けることで、実質的に無料になります。これを、労災保険の療養(補償)給付と言います。
補償が括弧付きになっているのは、業務中の労働災害である場合は療養補償給付となりますが、通勤中の労働災害の場合は療養給付となるからです。
療養(補償)給付は、治療を受ける病院が労災指定されているかどうかで手続きが異なります。基本的に労災指定病院で治療を受けた方が手続きは簡単です。緊急でやむを得ず労災指定病院以外の病院で治療を受けたとしても、金銭的な負担が増えるわけではありませんが、手続きはやや煩雑になります。
労災指定病院で治療を受ける場合は、最初の治療(最初の治療の後でも可)のときに、「療養補償給付たる療養の給付請求書」または「療養給付たる療養の給付請求書」を提出することで、自己負担をなしにすることができます。
一方、指定病院以外の病院で治療を受ける場合は、治療費を全額支払った後、労働基準監督署に「療養補償給付たる療養の費用請求書」または「療養給付たる療養の費用請求書」を提出することで、支払った費用のすべてが返ってきます。また、「療養補償給付たる療養の費用請求書」または「療養給付たる療養の費用請求書」を提出するときには、治療費に関する医師の証明や診療報酬明細書(レセプト)を添付しなければなりません。
労働災害による傷病の受診では健康保険が使えないため、治療費の全額を請求されることになります。そのため、傷病の程度が大きいときは、できるだけ労災指定病院を受診した方がいいでしょう。
休業の申請
労働災害による傷病により、働けなくなった場合、休業期間の賃金を補償するため、労災保険から休業(補償)給付および休業特別支給金が支給されます。
休業(補償)給付は、次のような要件を満たすことで支給されます。
- 労働災害が原因となる傷病により働けなくなったこと
- 傷病について医師の診断があること
- 休業が4日以上に及ぶこと(3日間の待機期間を経過したこと)
- 休業中に賃金が支払われていないこと
休業(補償)給付は、労働基準監督署に「労働者災害補償保険 休業補償給付支給請求書」または「労働者災害補償保険 休業給付支給請求書」提出して請求します。
以上で、従業員が業務中・通勤中に病気・ケガをしたときの手続きに関するおおまかな流れの説明が終わりました。
前述のとおり、従業員が業務中・通勤中に病気・ケガをした場合は、まずは従業員の生命の安全を確保しましょう。そのうえで、被災した労働者の健康や生活を補償するために、労災保険の給付を受けることができるように支援しなければなりません。
労災保険の給付を受ける初期段階で最も重要なことは、初診時に健康保険を使わないということです。一度健康保険を使ってしまうと、その後労災保険に切り替えることが難しくなってしまいます。労働災害と認定されていない段階では、療養(補償)給付を受けることも難しいため、一度は全額自己負担となってしまいますが、労働災害と認定された場合は後から全額が帰ってきますし、労働災害と認定されなかった場合でも、初診にさかのぼって健康保険が使えます。