療養給付たる療養の費用請求書

 

 

労働者災害補償保険(以下、労災保険)の療養給付(療養の費用の支給)を受けるときに作成する書類が、「療養給付たる療養の費用請求書(以下、療養の費用請求書)」です。

労働災害(通勤災害)と認定された場合、その負傷や疾病に係る治療は、労災保険によって補償されます。これが労災保険における「療養給付」です。

井上とまと

労災保険において、業務災害によって治療を受ける場合は療養補償給付、通勤災害によって治療を受ける場合は療養給付と、給付の名称が異なります。

療養補償給付には、現物給付である「療養の給付」と、現金給付である「療養の費用の支給」があります。しかし、どちらか一方を選択できるというわけではなく、やむを得ない場合を除いて、原則として「療養の給付」を受けることとされています。

一方、やむを得ない理由により、社会復帰促進等事業として設置された病院または診療所、都道府県労働局長の指定する病院または診療所、薬局、訪問看護事業者などの「指定病院等」で療養の給付を受けられない場合は、療養の費用の支給を受けることになります。

療養の費用の支給は、被災労働者が医療機関の窓口で、医療の費用を一度全額支払った後、被災労働者が自ら行政官庁に申請をして、医療にかかった費用分の現金を償還してもらうものです。

そのため、療養の給付を受けようとする者は、療養の給付請求書を、療養の給付を受けようとする病院または診療所、薬局、訪問看護事業者(指定病院等)を経由して、事業所がある地域を管轄する労働基準監督署に提出しなければなりませんでしたが、療養の費用の支給を受けようとする者は、療養の費用請求書を、直接労働基準監督署に提出しなければなりません。

 

療養の費用請求書の作成手順

 

それでは、療養の費用請求書を一緒に作成していきましょう。

今回は、「Bug’s Style 株式会社」の労働者である「蝶野蜚敏(ちょうのとびとし)」さんをモデルに進めていきます。

 

 

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労働保険番号

①労働保険番号は、事業所に振り出されている事業所番号を記入します。

労働保険番号
事業所(会社)が労働保険に加入したときに、労働基準監督署から振り出されるものです。番号は保険関係成立届で確認できますが、インターネット検索などでは確認できません。

*年金証書の番号は、労災保険において年金を受け取っている場合にのみ記入します。

 

労働者の情報

①性別は、「1:男、3:女」のいずれかの番号を記入します。

②労働者の生年月日は、元号を「1:明治、3:大正、5:昭和、7平成、9:令和」のいずれかの番号を左端の▢に記入し、年月日を続く▢に記入します。年月日が1桁の場合には、0⃣を記入して続けます。昭和50年1月23日生まれの場合は、「5⃣5⃣0⃣0⃣1⃣2⃣3⃣」と記入します。

③負傷又は発病年月日は、②と同様の規則で記入します。

④氏名は、カタカナと漢字のそれぞれを記入します。カタカナ表記は、欄外右上の「標準字体」の規則に従って記入します。

井上とまと

゛濁点も1マスに記入し、苗字と名前の間は1マス開けます。

⑤職種は、被災労働者の職種を記入します。

⑥住所は、郵便番号と住所を記入します。住所にはフリガナも記入します。

 

金融機関の情報

給付の授受
「療養の費用の支給」は、最終的に現金が支給されます。しかし、現金は手渡しされるのではなく、金融機関への振込というかたちで行われます。そのため、振込先の金融機関の情報も記入しておく必要があります。

①区分は、「新規・変更」のいずれかに〇を付けます。初めて療養の費用の支給を受ける場合は、新規に〇が付きます。

②振込を希望する金融機関の名称は、金融機関名と本店・支店名を記入します。

③口座名義人は、基本的に被災労働者の口座となります。

井上とまと

労災保険の給付はそのほとんどが、被災労働者に向けられたものとなっているため、療養の費用を事業所(会社)が立て替えていたとしても、振り込みを希望する口座は、被災労働者名義個人のものであることが望ましいです。というよりも、被災労働者名義の口座以外の口座に振り込んでもらうようにすると、余計な確認や手続きが生じる場合があります。

④預貯金の種類は、「1:普通、3:当座」のいずれかの番号を記入します。

⑤口座番号は、そのまま記入します。左詰めで記入します。

井上とまと

ゆうちょ銀行の場合は少し特殊な書き方になりますので、様式の注意書きをよく読んで記入しましょう。

⑥口座名芸人(カタカナ)は、欄外右上の「標準字体」の規則に従って記入します。

 

事業所の証明

①欄内の日にちを記入するところには、前述の情報が正確であることを、事業所が証明した日を記入します。

②事業所の情報は、事業の名称、電話番号、所在地(郵便番号)、事業主の氏名を記入し、印鑑を押します。

 

指定病院等の証明A

指定病院等の証明は、労働災害によって引き起こされた負傷や疾病を診断または治療した医師などに記入してもらいます。

①療養の内容は、期間、その期間の日数、診療実日数を記入します。蝶野蜚敏さんは「令和3年12月30日から令和3年12月31日までの2日間 診療実日数2日」の療養を受けました。

井上とまと

診療実日数とは、実際に療養を受けた日数のことです。

②傷病の部位及び傷病名は、医師等から受けた診断名を記入します。

③傷病の経過の概要は、傷病の治療または治癒までの経過を記入します。

④左下欄の日にちを記入するところには、労働災害によって引き起こされた負傷や疾病の転帰を「治癒(症状固定)、継続中、転医、中止、死亡」のいずれかから選んで〇を付け、その日を記入します。

井上とまと

症状固定とは、障害が残るもののそれ以上はもう治療効果を得られない状態(症状が固定された状態)のことです。

⑤右欄の日にちを記入するところには、左欄の事項を証明する日を記入します。

⑥病院又は診療所の情報は、証明をした医療機関の所在地(郵便番号)、名称、電話番号、診療担当者氏名を記入し、医療機関の印鑑を押します。

 

指定病院等の証明B

①療養の内訳及び金額は、前述の「療養の内容」の期間に受けた療養の費用の総額を記入します。ただし、看護料、移送費、その他の療養費は、それぞれ別に金額を記入します。

井上とまと

看護料は入院した場合の入院料などが該当し、移送費は救急車による救急搬送の費用や医療機関までの交通費などが該当し、その他の療養は柔道整復師などによる施術や温泉療養などが該当します。

②療養の給付を受けなかった理由は、指定病院等で療養を受けなかった理由を記入します。

③療養に要した費用の額は、①の合計額を記入します。

 

欄外下

①欄外下の日にちを記入するところには、療養の費用請求書を提出する日を記入します。

②左端の「___労働基準監督署長 殿」には、事業所がある地域を管轄する労働基準監督署(長)の名称を記入します。「Bug’s Style 株式会社」は、愛知県名古屋市天白区にありますから、ここでは「名古屋東」と記入します。

③請求人の情報は、郵便番号、電話番号、住所、氏名を漏れなく記入し、印鑑を押します。

 

災害の情報A(裏面)

①災害時の通勤の種別は、「イ:住居から終業の場所への移動、ロ:就業場所から居住への移動、ハ:就業の場所から他の就業の場所への移動、ニ:イに先行する住居間の移動、ホ:ロに後続する住居間の移動」のいずれかに〇を付けます。

通勤の定義
労災保険において、通勤は次のように定義されています。 ①住居と終業の場所との間の往復 ②厚生労働省令で定める終業の場所から他の就業の場所への移動 ③①の往復に先行し、または後続する住居間の移動 上記のような往復や移動の経路から逸脱または中断すると、通勤災害と認められなくなる場合があります。

②労働者の所属事業場の名称・所在地は、そのまま記入します。

③現任者の情報は、災害発生時に被災労働者と一緒にいた者がいた場合に、その者の住所や氏名を記入します。

④災害の原因及び発生状況は、労働災害と認定されるかどうかの1つの判断材料になりますので、できるだけ詳細に記入します。特に、労働災害の発生場所、発生時の作業内容、発生時の環境、不安全な状況および有害な状態、労働災害の内容が明確になるように意識して記入します。

 

災害の情報B(裏面)

①負傷又は発病の年月日及び時刻②災害発生の場所③就業の場所は、いずれもそのまま記入します。

④就業開始の予定年月日及び時刻⑤住居を離れた年月日及び時刻は、いずれもそのまま記入します。

出勤時の災害
通勤災害が出勤時に発生した場合は、「就業開始の予定年月日及び時刻」および「住居を離れた年月日及び時刻」を記入し、退勤時に発生した場合は、「就業終了の予定年月日及び時刻」および「就業の場所を離れた年月日及び時刻」を記入します。

⑥第三者行為災害は、本請求書における災害が第三者の行為によって引き起こされたものである場合は「該当する」に〇を付け、第三者の行為によって引き起こされたものでない場合は「該当しない」に〇を付けます。

⑦健康保険日雇特例被保険者手帳の記号及び番号は、被災労働者が健康保険の日雇特例被保険者である場合に記入します。

⑧転任の事実の有無は、出張における移動時などに災害が発生した場合に記入します。

⑨災害時の通勤の種別に関する移動の通常の経路、方法及び所要時間並びに災害発生の日に住居又は就業の場所から災害発生の場所に至った経路、方法、時間、その他の状況は、住居⇔就業先までの通常の経路を記入します。交通手段、所要時間、災害の発生場所および時刻がわかるように、イラストなどを用いて記入するといいでしょう。

 

その他就業先の有無(裏面)

その他就業先の有無欄には、まず、その他の就業先の「有無」に〇を付けます。その他の就業先がない場合には、「無」に〇をつけて終わります。「有」に〇が付いた場合は、その他の情報を記入します。

 

派遣先事業主証明欄および社会保険労務士記載欄(裏面)

被災労働者が派遣労働者の場合、労働災害が派遣先で発生したとしても、派遣元事業主が療養の給付請求書を作成します。そのとき、派遣元事業主が記入した事項に事実と異なる点がないかを、派遣先事業主が証明しなければなりません。

社会保険労務士記載欄は、本申請書などの事務処理を社会保険労務士に委託しているときは、当該欄にその氏名を記入します。

 


 

以上で、療養の費用請求書の作成が終わりました。

療養の費用請求書は、医療機関などを経由して行政官庁に提出するわけではありませんから、療養の給付請求書とは異なり、療養やその費用についての医療機関などの証明が必要になります。また、療養の費用請求書を提出する際は、診療報酬明細書(レセプト)を添付しなければなりません。

 

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