経済・金融の基礎知識
経済および金融における重要な調査や指標を紹介します。
この記事を読むことで、国内の財貨やサービスの量、企業動向、家計および消費の状況、雇用および物価の状況、国内の通貨の流れを表す調査や指標の概要を理解することができます。自分の財産を動かすときの客観的な判断材料になります。
目次
国内総生産(Gross Domestic Product:GDP)
国内で生産される財貨やサービスなどの付加価値を合計したもので、内閣府が四半期ごとに公表します。
GDPは付加価値の合計なので、付加価値に何を含めるかでその値も変化します。一般的には市場で取引された財貨やサービスの生産のみが計上され、家庭内労働やボランティア活動、地下経済などは含まれません。また、二重で算入することを防ぐため中間財貨なども除外されます。ただし、これらの項目は国によって参入不算入が異なり、最近では売春や麻薬取引、一部の中間財貨なども参入する動きがあります。
GDPには実質GDPと名目GDPがあります。経済成長率は実質GDPを用います。
日本のGDPは世界第3位ですが、1位の米国と2位の中国には大きく差をつけられています。
GDPの構成項目
三面等価の原則
GDPは生産・分配・支出の3つの面から捉えることができ、これら3つの値は等しくなるという原則(生産=分配+支出)のことです。
ただし、三面等価の原則が完全なかたちで成り立つことはありません。実際には生産したものが売れ残ったり、逆に不足したりするのが常ですから、需要と供給が完全に一致するというのは非現実的です。
GDPギャップ
潜在GDPと実際のGDPのギャップのことで、実際のGDPが潜在GDPを上回るときのギャップをインフレギャップ、実際のGDPが潜在GDPを下回るときのギャップをデフレギャップと言い、それぞれインフレーションやデフレーションを引き起こす要因の一つになります。
景気動向指数
景気動向指数
生産、雇用など様々な経済活動での重要かつ敏感に反応する指標の動きを統合することにより、景気の状況把握および将来予測に資するために作成された指標で、内閣府が毎月公表します。
景気動向指数にはCIとDIの2つがあります。CIは主として景気変動の大きさやテンポを測定することを目的としていて、CI一致指数が上昇しているときは景気の拡張局面、低下しているときは後退局面であり、CI一致指数の動きと景気の転換点はおおむね一致します。一方、DIは採用系列のうち改善している指標の割合のことで、景気の各部門への波及度合いを表します。DI一致指数は景気拡張局面では50%を上回り、後退局面では50%を下回る傾向がある。
先行系列
①最終需要財在庫率指数 | 鉄工業生産の最終需要財の在庫率の動きで景気を見るもの |
②鉱工業用生産財在庫率指数 | 生産者が保有する鉱工業製品在庫の水準と動向を出荷との対比で捉えたもの |
③新規求人数 | 1人あたりの求職者に対してどれだけの求人数があるのかを示すもの |
④実質機械受注 | 各産業から1か月間にどれだけの受注をしたかを集計したもの |
⑤新設住宅着工床面積 | 建築工事届のうち住宅について集計したもの |
⑥消費者態度指数 | 消費者の景気の動きに対する意識を示すもの |
⑦日経商品指数(42種総合) | 主要商品の卸価格を基に算出するもの |
⑧マネーストック | 金融機関から経済全体に供給されている通貨の総量 |
⑨東証株価指数 | 東京証券取引所市場第1部上場の全銘柄を対象として算出もの |
⑩投資環境指数 | 投資採算を示すもの |
⑪中小企業売上見通しDI | 中小企業の売上見通しに関するサーベイ・データで企業マインドを反映したもの |
一致系列
①生産指数 | 生産数量の動態的変化を示すもの |
②鉱工業用生産財出荷指数 | 月々の鉱工業生産の水準および動きを示すもの |
③耐久消費財出荷指数 | 耐久消費財の出荷状況を表すもの |
④所定外労働時間指数 | 残業・休日出勤に要する実労働時間を示すもの |
⑤投資財出荷指数 投資財 | (輸送機械を除く)および建設財の出荷の増減を表すもの |
⑥商業販売額 | 卸売業や小売業などの販売額などを表すもの |
⑦営業利益(小売業・卸売業) | 本業の儲けを表すもの |
⑧有効求人倍率 | 有効求職者数に対する有効求人数の比率 |
遅行系列
①第3次産業活動 | 第3次産業に属する業種の生産活動を総合的に示すもの |
②常用雇用指数 | 雇用水準の時系列的変化を示すもの |
③実質法人企業設備投資 | 固定資産などの増加した数字を集計したもの |
④家計消費支出 | 国内市場における最終消費支出と居住者たる家計の最終消費支出 |
⑤法人税収入 | 完全失業者数を労働力人口で割ったもの |
⑥完全失業率 | |
⑦決まって支給する給与 | |
⑧消費者物価指数 末端価格 | (消費者が実際に購入する段階の商品小売価格)の変動を表すもの |
⑨最終需要財在庫指数 | 鉄工業生産の最終需要財の在庫率の動き |
景気動向指数は様々な用途に用いられるため、実際にデータを分析・算出する際にはCIとDIの性格をしっかりと捉えることができないといけません。
全国企業短期経済観測調査(日銀短観)
全国の企業動向を把握し、金融政策の適切な運営に資することを目的とする統計調査で、日本銀行が四半期ごとに年4回実施します。
調査の対象企業は、業種別(製造業17種類・非製造業14種類の合計31業種)および規模別(大企業・中堅企業・中小企業)に区分されています。企業が自社の業況や経済環境の現状・先行きについてどう見ているかといった項目に加え、売上高や収益、設備投資額といった事業計画の実績・予測値などの企業活動全般の項目について調査しています。
各種の調査の中で最も注目度が高いのが業況判断DIで、現在の業況と3か月後の業況予測について、「良い」、「さほど良くない」、「悪い」の3段階で回答し、「良い」と回答した企業の割合から「悪い」と回答した企業の割合を差し引いて算出します。
株式なりFXなり、何らかの投資をする人にとってはとても重要な指標です。
家計・消費関連統計
家計調査
収入・支出、貯蓄・負債などの家計に関する調査で、総務省が毎月調査・公表します。
すべての世帯を「勤労者世帯」と「勤労者以外の世帯」に分けて調査を行うほか、家計全体の消費動向や品目別の消費動向も把握することができます。
家計貯蓄
国民経済計算を基に算出される統計で、内閣府が公表します。
高齢化や賃金の変化を受け、将来に対する不安が大きくなると家計貯蓄も増加する傾向にある。
家計貯蓄率は家計の可処分所得に対する家計貯蓄の割合のことで、家計貯蓄率がマイナスになるということは家計が所得以上に消費をし、これまでに貯蓄してきた金融資産を取り崩していることを意味します。
消費者態度指数
内閣府が毎月実施する消費動向調査のうち、「暮らし向き」や「収入の増え方」などの今後半年間の見通しを基に算出する指標です。
消費者態度指数の算出に当たっては、5段階評価(良くなる・やや良くなる・変わらない・やや悪くなる・悪くなる)に点数を付与し、加重平均することで指数化しています。
日銀短観が企業動向を示すものだったのに対して、消費者態度指数は消費者動向を示すものになっています。
雇用関連統計・物価関連統計
完全失業率
労働力人口(働く意思を持っている15歳以上の人口)に対する完全失業者の割合。
有効求人倍率
ハローワークにおける有効求職者数に対する有効求人数の倍率。
この数値が1を超えると求人が見つからない企業が多くなり(人手不足)、1倍を下回ると職が見つからない人が多くなります(就職難)。
常用雇用指数
月末時点の常用労働者数を基準時点(2015年)の平均を100として指数化したもの。
常用労働者とは期間を定めずに雇われている者、もしくは1か月以上の期間を定めて雇われている者のいずれかに該当する者のことです。
企業物価指数
企業間で取引される財貨を対象に、現時点の価格を基準時点(2015年)の価格を100として指数化したもの。
国内企業物価指数、輸出物価指数、輸入物価指数の3つを総称して基本分類指数と呼び、基本分類指数と参考指数を合わせたものが企業物価指数で、日本銀行が毎月調査・公表します。
消費者物価指数
全国の世帯が購入する財貨・サービスの価格変動を総合的に測定し、基準時点(2015年)の価格を100として指数化したもの。
調査品目が非常に多く、多岐にわたることから生活者の実感に近い物価指数である。また、日本銀行は2013年1月に物価安定の目標を前年比上昇率2%と定めており、金融政策の目標として用いられることもあります。総務省が毎月調査・公表します。
雇用や物価関連の動向は、他の景気を表す動向よりもやや遅れて動いていく傾向にあります。
マネー関連統計
マネーストック
金融部門から経済全体に供給される通貨の総量のことで、日本銀行が毎月公表しています。
M1、M2、M3、広義流動性の4つの指標に分類され、対象は一般法人、個人、地方公共団体などの通貨保有が主体です(金融機関や中央政府などは有する通貨は含まない)。
金融政策
金融政策は日本銀行が公開市場操作などの手段を用いて、金融市場における金利の形成に影響を及ぼし、通貨および金融の調節を行うことです。
金融政策の基本方針は金融政策決定会合(年8回)で決定されます。金融政策決定会合では金融経済情勢に関する検討を行うとともに、金融市場調整方針や当面の金融政策の運営方針を決定し、決定した内容は直ちに公表されます。
公開市場操作(オペレーション)
新型コロナウイルスの感染拡大により経済が悪化したことで買いオペが進み、2020年12月に日銀の資産額が過去最高を更新しました。
基礎的財政収支(プライマリーバランス)
プライマリーバランスとは、国債費を除いた歳出と公債金収入を除いた歳入との収支のことで、国の財政状態を表す収支です。