企画業務型裁量労働制に関する決議届
企画業務型裁量労働制を採用するときに作成する書類が、「企画業務型裁量労働制に関する決議届」です。
企画業務型裁量労働制は、事業所に労使委員会を設置し、その委員の5分の4以上の多数による議決により、次の事項に関する決議をすることで採用することができます。
- 対象業務
- 対象労働者の範囲
- 対象労働者の1日当たりの労働時間数
- 対象労働者の労働時間の状況に応じた当該労働者の健康および福祉を確保するための措置を当該決議で定めるところにより使用者が講ずること
- 対象労働者からの苦情の処理に関する措置を当該決議で定めることにより使用者が講ずること
- 使用者は、対象労働者を対象業務に就かせたときは、当該決議で定める時間労働したものとみなすことについて当該労働者の同意を得なければならないことおよび当該同意をしなかった当該労働者に対して解雇その他不利益な取り扱いをしてはならないこと
- その他厚生労働省令で定める事項
「委員の5分の4以上の多数による議決」とは、労使委員会に出席した委員の5分の4以上の多数ということです。すべての労使委員会の委員の5分の4以上という意味ではありません。
労使委員会 賃金、労働時間その他の当該事業所における労働条件に関する事項を調査審議し、事業主に対し当該事項について意見を述べることを目的とする委員会のことを言います。労使委員会は、委員会の招集、定足数、議事、運営などについての必要な事項に関する規定を定めておかなければなりません。 |
企画業務型裁量労働制に関する決議届の作成手順
それでは、企画業務型裁量労働制に関する決議届を一緒に作成していきましょう。
今回は、「株式会社 ヤマノ金属」の代表取締役である「山野金男(やまのかねお)」さんと、労働者の代表である「河野鉄男(かわのてつお)」さんをモデルに進めていきます。
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事業の情報
①事業の種類は、労災保険率適用事業細目表に記されている「事業の種類」の中から、その事業所に該当するものを選んで記入します。株式会社 ヤマノ金属は、自動車用の金属部品を製造しています。そのため、事業の種類は「金属材料品製造業」と記入します。
②事業の名称は、その事業所の名前を記入します。ここでは「株式会社 ヤマノ金属」と記入します。
③事業の所在地および電話番号は、事業所がある場所の住所とその電話番号を記入します。
事業所の所在地 店舗、社屋、事務所などを持つ場合は、事業の所在地はその店舗などがある住所を記入します。一方、店舗などを持たずに事業を経営している場合(フリーランスなど)は、自宅などの主たる活動拠点を記入します。 |
④常時使用する労働者数は、企画業務型裁量労働制に関する決議をした時点での常時使用する労働者数を記入します。ヤマノ金属の常時使用する労働者は「300人」です。
常時使用する労働者 常態として働いている者という意味です。たとえば、常に7人の労働者を雇用していて、繁忙期の2~3か月だけ増員する場合の「常時使用する労働者数」は、7人となります。また、「労働者」にはあらゆる雇用形態の労働者が含まれますが、前文のように繁忙期だけ雇用する労働者は含まれません。 |
主な決議事項
①業務の種類は、企画業務型裁量労働制の対象となる業務を記入します。ヤマノ金属では、「企画部で経営計画を立案する業務」、「人事部で人事計画を立案する業務」に当たる人を対象としています。
業務の種類 労使委員会の決議事項にある「対象業務」と同義です。対象業務は、「事業の運営に関する事項についての企画、立案、調査及び分析の業務であって、当該業務の性質上これを適切に遂行するにはその遂行方法を大幅に労働者の裁量に委ねる必要があるため、当該業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をしないこととする業務をいう」と規定されています。 |
企業の企画経営などのコンサルティング業務などが、対象業務となり得ます。
②労働者の範囲は、①の「事業の種類」に当たる労働者の条件を記入します。対象が明確になるように、具体的な数字などを用いて記入します。
③労働者数は、企画業務型裁量労働制の対象となる業務に従事する労働者数を記入します。ヤマノ金属では、企画部で「15人」、人事部で「10人」の労働者が企画業務型裁量労働制の対象となります。
ちなみに、満18歳未満の者は企画業務型裁量労働制の対象になり得ません。
④決議で定める労働時間は、労使委員会の決議で定められた労働時間を記入します。ヤマノ金属の決議で定める労働時間は「10時間」です。決議で定める労働時間が法定労働時間を超える場合は、36協定も結ばなければなりません。
その他の決議事項
①労働者の健康及び福祉を確保するために講ずる措置、②労働者からの苦情に関して講ずる措置は、決議の内容をそのまま記入します。
労働者の保護措置 企画業務型裁量労働制は、使用者が業務の遂行の方法や時間配分の決定をしないゆえに、やもすると過剰労働になることもあります。そのため、企画業務型裁量労働制に関する労使協定を締結するときには、労働者の健康及び福祉を確保するために講ずる措置、労働者のからの苦情の処理に関して講ずる措置を定めておかなければなりません。 |
③労働者の同意を得なければならないこと及び同意をしなかった労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならないことについての決議の有無、④労働者ごとの、労働時間の状況並びに当該労働者の健康及び福祉を確保するための措置として講じた措置、労働者からの苦情の処理に関する措置として講じた措置並びに労働者の同意に関する記録を保存することについての決議の有無は、基本的に「有」に〇が付きます。
「有」に〇が付かない労使委員会の決議や決議届は、有効なものとは認められず、行政官庁に届け出ても許可を得られない場合があります。
⑤決議の成立年月日は、労使委員会の決議がなされた日を記入します。
⑥決議の有効期間は、決議の成立年月日からその有効期限までの日にちを記入します。通常、期限は1年間とすることが多いです。
労使委員会の情報
①委員会の委員数は、労使委員会の委員数を記入します。
②規定の有無、③委員会の同意の有無は、基本的に「有」に〇が付きます。いずれも、労使委員会の成立要件となっていますから、「無」に〇が付くと、労使委員会の存在自体が否定される可能性もあります。
労使委員会自体が否定されると、当然のことながらその決議も効果を発揮しなくなります。
④運営規定に含まれている事項は、該当するものに〇を付けます。
委員の情報
①任期を定めて指名された委員の氏名は、労使委員会の委員のうち、任期が定められている委員の氏名を記入します。
②任期を定めて指名された委員の任期は、その委員の任期を記入します。
③その他の委員は、任期が定められていない委員の氏名を記入します。
労使委員会の委員 労働者を代表する委員と使用者を代表する委員で構成されていなければなりません。人数についての規定はありませんが、労働者を代表する委員が半数を占めている必要があります。使用者を代表する委員は、使用者から指名され(任期を設定しない場合が多いです)、労働者を代表する委員は、労働者を代表する者から任期を定めて指名されます。 |
欄外下
①代表する者の職名・氏名は、労使委員会の決議をするときの労働者側の代表者の所属している事業所の名称、職名、氏名を記入し、その横に代表者の印鑑を押します。
②選出方法は、労働者側の代表者の選出方法を記入します。
③欄外下の日にちを記入するところには、企画業務型裁量労働制に関する決議届を提出する日を記入します。
④左端の「___労働基準監督署長 殿」には、その事業所の住所がある地域を管轄する労働基準監督署(長)の名称を記入します。ヤマノ金属は、埼玉県草加市栄町にありますから、ここでは「春日部」と記入します。
⑤使用者の情報は、事業所の名称、事業主の職名、事業主の氏名を記入し、事業所または事業主の印鑑を押します。
以上で、企画業務型裁量労働制に関する決議届の作成が終わりました。
企画業務型裁量労働制を採用する場合は、労使委員会がその委員の5分の4以上の多数による決議の上、企画業務型裁量労働制に関する決議届を作成し、行政官庁に届け出なければなりません。
また、企画業務型裁量労働制に関する決議届を届け出た使用者は、その決議が行われた日から起算して6か月以内ごとに1回、対象労働者の労働時間状況、対象労働者の健康及び福祉を確保するための措置の実施状況を行政官庁に届け出なければなりません。