貯蓄金管理に関する協定届

 

 

労働基準法第24条における「賃金の全額払いの原則」により、「法令に別段の定めがある場合」と「書面による協定がある場合」以外には、いかなる名称のものも賃金から控除してはなりません。

「法令に別段の定めがある場合」には、給与所得からの所得税などの源泉徴収、社会保険料の控除、賃金計算の端数処理などが含まれ、法令上の手続きをせずに賃金から除外できます。一方、それら以外のものを控除しようとする場合には、「書面による協定(労使協定)」を締結しなければならないと、賃金控除に関する協定書の記事で説明しました。

では、次のような制度を利用する場合はどうすればいいのでしょうか。

  • 財形貯蓄制度
  • 団体加入の保険
  • 社内預金

結論から言うと、 上記の3つのような制度を利用する場合には、 労使協定を締結する必要があります。

井上とまと

賃金の全額払いの原則に違反するのは、賃金を労働者に支払う前に、その一部を控除する場合です。そのため、賃金を全額支払った後、別途に預金や保険料などを労働者から徴収する場合は、賃金の全額払いの原則の違反にはなりません。ただし、金銭の往来が発生するため、トラブルが起きないような対策を労使間で決めておいた方がいいと思います。

①財形貯蓄制度、②団体加入保険については、賃金控除に関する協定書を作成し、(就業規則などにより)労働者に周知することで、預金や保険料を賃金から控除することができます。

一方、③社内預金については、労働基準法第18条における「強制貯金の禁止」の規定を免れるため、「 賃金控除に関する協定書 」に係る労使協定に加えて、「貯蓄金管理に関する協定届」に係る労使協定も締結し、同協定届を行政官庁に提出しなければなりません。

貯蓄金管理に関する協定届には、次のような必須事項を明記しなければなりません。

  • 預金者の範囲
  • 預金者一人当たりの預金額の限度
  • 預金の利率および利子の計算方法
  • 預金の受入れおよび払戻しの手続
  • 預金の保全の方法

加えて、社内預金をする場合は、年5厘以上の利子を付けることや、預金の管理状況を毎年報告するなどの要件が定められています。

 

貯蓄金管理に関する協定届の作成手順

 

それでは、貯蓄金管理に関する協定届を一緒に作成していきましょう。

今回は、「ベーカリー TOMATO」の事業主である「畑太郎(はたけたろう)」さんと、労働者の代表である「盆地三郎(ぼんちさぶろう)」さんをモデルに進めていきます。

 

 

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事業の情報

①事業の種類は、労災保険率適用事業細目表に記されている「事業の種類」の中から、その事業所に該当するものを選んで記入します。ベーカリー TOMATOでは、パンの製造および販売を生業としています。そのため、事業の種類は「食料品製造業」と記入します。

②事業の名称③事業の所在地は、そのまま記入します。

 

協定の内容

①協定成立年月日は、貯蓄金管理に関する協定が締結された日を記入します。

②協定の当事者である労働組合の名称又は労働者代表の氏名は、そのまま記入します。

 

基本的な管理方法

①預金者の範囲は、社内預金の対象になる労働者の範囲を記入します。ベーカリー TOMATOでは、「雇用しているすべての労働者」を対象としています。ただし、事業主である畑太郎さんとの間に「明確な雇用関係のない労働者」は対象としていません。

井上とまと

実際に貯蓄金を管理してもらっている労働者を記入するわけではありません。「貯蓄金を管理してもらうことができる労働者の範囲」を記入します。

②預金者1人当たりの預金額の限度は、管理することができる貯蓄金の範囲や、貯蓄金の最高限度額を記入します。ベーカリー TOMATOでは、「預貯金は給与に限り、最高限度を500万円とする」としています。

③預金の利率は、社内預金の利率を記入します。ベーカリー TOMATOでは、「年5厘(0.5%)」の利率に設定しています。10万円を預けていたとしたら、1年後に10万円×0.5=500円の利息を労働者に払わなければならないということになります。

社内預金の利率
通常は1年間の利率(年率)で表されます。預金の利率で注意しなければならないのは、労働基準法の規定で最低利率(年5厘)が設けられていることです。そのため、預金の利率は年5厘以上に設定してはなりません。

④預金の利息の計算方法は、利息を計算する際の元金の端数処理、利息の計算時期などを記入します。

⑤預金の受入れ及び払戻しの方法は、預金の受入れや払戻しの手続き、それらの証明方法、金銭の出入りの際の注意点などを記入します。

井上とまと

預金の利息の計算方法、預金の受入れ及び払戻しの方法については、トラブルが生じることも多いため、別紙(個人別預金元帳)などで、より詳細に記録しておく必要があります。

⑥預金の保全の方法⑦預金の運用は、以下の点に注意しながら記入します。

預金の保全の方法および預金の運用の注意点
社内預金には2つのリスクがあります。1つは、管理していた貯蓄金が払戻しできなくなること。もう1つは、定めていた利率以上の運用ができなくなること。それらのリスクを回避する方法を、⑥預金の保全の方法、⑦預金の運用の方法として、労働者に明示しておく必要があります。そのため、それぞれの欄には、管理していた貯蓄金が払戻しできなくならないような対策、定めていた利率以上の運用ができるような対策を記入することになります。
井上とまと

労働者はこれらの管理方法に納得した上で、労働者の自由意思により、事業所に貯蓄金を管理してもらいます。

 

その他の方法による貯蓄金管理の場合・欄外下

①その他の方法による貯蓄金管理の場合は、労働者の預金の受入れによる貯蓄金管理以外の方法で、貯蓄金を管理する場合に記入します。金銭(貯蓄金)を直接預かるのではなく、労働者の通帳やキャッシュカードなどを預かる場合は、当該欄にその旨を記入します。

井上とまと

労働者の通帳やキャッシュカードなどを預かる(預金の受入れによる貯蓄金以外の管理)場合は、貯蓄金管理に関する協定届を作成するものの、行政官庁に届け出る必要はありません。

②欄外左上の日付を記入するところには、貯蓄金管理に関する協定届を提出する日を記入します。

③左端の「___労働基準監督署長 殿」には、事業所がある地域を管轄する労働基準監督署(長)の名称を記載します。ベーカリー TOMATOは、神奈川県川崎市高津区溝の口にありますから、ここでは「川﨑北」と記入します。

④使用者の情報は、事業所の名称、事業主の職名、事業主の氏名を記入し、事業所もしくは事業主の印鑑を押します。

 


 

以上で、貯蓄金管理に関する協定届の作成が終わりました。

社内預金の労働者側のメリットは、①最低利率(年0.5%以上の利率)が法律によって設定されていること、②管理しているのが労働者自身が所属している事業所であるため、引き出しがいつでも自由にできるという点にあります。財形貯蓄制度は、利率が年0.01%程度、管理が金融機関であるため自由に引き出すことができないなど、社内預金に比べると大きく見劣りします。

一方、社内預金の使用者側のメリットは、ほとんどありません。一昔前は金融機関の利率も良く、事業拡大や設備投資のための一時的な資金源として活用することもできました。現在は慢性的な低金利の影響で、最低利率の運用が非常に難しくなっています。そのため、社内預金を実施している事業所は、今日ではほとんどありません。貯蓄金管理に関する協定届を作成する機会はあまりなさそうです。

 

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